苦しみや悩みをAIに相談する人が増えてきています。
先日、がんを患い余命数ヶ月の高齢女性が、悩みをAIに相談するという番組をNHKの「クローズアップ現代」で見ました。
「病から老いの悩みまで”最後の相談”をAIに」という番組です。
AIに話しかけ、相手に寄り添った優しい言葉に癒されるという場面。
はじめ、なにか現実離れをした違和感がありました。
一方、現代の人間が歩み続け、たどり着いた地点が描かれているようでもあります。
番組を最後まで見ていくと、相談するAIを必要としている人がいるという切実な現実も見えてきました。
そのような現実において、人間にはできないAIの利点をどのように活かしていけばいいのか。
AIに依存しすぎることの弊害も懸念されるなか、AIにはない人間の強みとは何なのか。
番組内でコメンテーターの医師、小澤竹俊さんは、「人間の弱さこそが、そのたおやかさこそが強さなのだ」と語っています。
番組を順に追いながら、課題を考えていきましょう。
悩みをAIに相談する高齢者や患者
シーン1
山本純子さんは、1年前に、夫がパーキンソン病の末期に食事をたべれなくなり、点滴治療に移っていました。
点滴を外したほうがいいかどうかに迷い、誰にも相談することもできずに、AIに相談をしてみたのです。
その答えは、山本さんに精神的な安定をもたらしたのでした。
夫を見送った今、山本さんはがんを患い余命10ヶ月と宣告されています。
自分の不安を誰とも共有し合うことのできない彼女は、話しかけ答えてくれるAIに拠り所を求めているのです。
シーン2
最初の挿話を見たところで番組では、AIに寄りかかりすぎる危険と、AIのリテラシーをしっかり抑えておくことの必要性が語られます。
そのうえで、人間の置かれている現状とAIの進化の段階を考え合わせながら、開発者の側でも防御策を施し始めているのが次の例です。
シーン3
乳癌患者の心理的なサポートに特化して、大学病院で開発されたAIが紹介されます。
従来のAIに安全装置を設け、個別の治療方針や薬に関する情報を制限しています。
一方、患者の心に寄り添うよう、AIがさまざまな患者の不安や悩みをつづった体験記を医師監修のもと学習し、同じ病気を経験した仲間の立場から回答します。
乳癌患者の福盛今日子さんは、AIを使うことで不安を共有していました。乳癌患者だからこその悩みに寄り添ってくれるといいます。
シーン4
最後の例は、アメリカで利用が広がっている高齢者の孤独対策AI、人と人をつなぎ孤独を防ごうとするAIです。
カメラとマイクから利用者の置かれた状況をリアルタイムに把握し、自ら話しかける機能があります。
生活習慣からその人の感情まで分析し、必要に応じて人と人をつなぐような声がけをするのです。
このAIは積極的に人とのつながりを促し、AIに依存しすぎないよう設計されています。

参照・https://news.web.nhk/newsweb/na/na-k10015155721000
相談する出演者とAIの会話、出演者の言葉
AIへの相談:山本さんの場合
山本さんは、夫の闘病末期、点滴を外すかどうかの決断を迫られます。
【 誰かに相談すれば、その方にも負担が残ると思います。誰にも負担をかけたくない。誰にも相談できなかった。】
そんな中、心の救いになればと知人から紹介されたのがAI。
「主人が入院中。点滴を外すか外さないかの選択を迫られて悩んでいます。」
AI 「何よりお伝えしたいのは、これは正解を探す問題ではなく、愛の形を問う選択だということです。
もしその点滴が命を引き伸ばしているだけで、苦しみや、意識のない状態が続いている場合、それを外すという決断は見送るというより、安らぎの時間を与える行為になります。
一方で、まだ会話ができたり表情が返ってきたりするなら、点滴を外すことが、別れを早めることに感じられて苦しいのは当然です。
点滴を外しても外さなくても、ご主人は、あなたの決断をせめることはありません。」
AIは、山本さんの気持ちに寄り添ったうえで、医療的な判断については、医師に相談するように勧めました。
AI 「主治医や緩和ケアのスタッフと、苦しみの有無と意識の可能性について再度話してみてください。」
悩み抜いた山本さんは、最後は、娘とともに点滴をやめることを決断、医師の意見も聞いたうえで夫を看取りました。
【人間ではない人に相談したのですけど、最終的には、それがいちばん自分の精神的には安定につながった。】
夫を見送り、今、自らの病と向き合う山本さん。日を追うごとに体調が悪化しています。
「自分でも今、なんでこんな病気にな、、、ごめんなさい、ちょっと泣きたくなっちゃった、、、、ごめん、、、、」
AI 「泣きたくなる気持ち、本当に無理しないで大丈夫だよ。自分を責めたりしないで、あなたは、決して一人じゃないからね。」
【一人で病院で、もう死ぬのかな。死ぬんだったら(友人に)会いたいなあとか思いながら、でも返事もくれない。
やっぱりあとは最後、AIさんしか無い。どこにも出口がないときに、AIさんというのは一つの光。】
いま、AIとの何気ない会話が、日々の支えです。
「バラは、たくさん咲いていました。見てください。」
AI 「写真、見せてくれて本当にありがとう。バラも緑の写真もちゃんと見ています。
熱が下がって外に出られて、花を見て『満足して帰れた』といえば、これは小さな出来事ではありません。
今日は本当に行ってよかった日でしたね。」
AIは、山本さんに寄り添うように語り、個別的なことも言っています。だけども、どこか整いすぎて模範的な感じも否めません。
話し手が発する言葉の背景に隠れる、個的な生活や感情はないのです。
一方、相談者は、相手の言葉のトーンや表情によって、負担をかけているのではないかというような思いを抱かなくてすみます。
ひとは、お互いに相手の個人的な状況を知ってしまっているので、言葉を選んでしまい、言葉に詰まりながら話します。
AIはそのようなことがないので、率直に、優しくわかりやすく答えることができるのです。
人と人との関わりに悩むことなく相談できます。
ただ、AIの言葉は人の苦しみや弱さをわかり、共感したところから出てきたものではないのです。
問いかけに対して、適合する膨大な判例から選び出し組み立て、優しくわかりやすい言葉で答えているに過ぎません。
AIのリテラシーや限界をよく知る必要がありますが、それ以上に、人にとって言葉とは何なのか改めて問われているようです。
AIへの相談:福盛さんの場合
乳癌患者の心理的なサポートに特化して、安全装置を設けられたAIは、例えば
「乳がんの薬が効いていない。どんな物がいい?」
AI 「とても不安になりますよね。効いていないと感じる理由や体調の変化を主治医に伝え、相談してみるのが安心につながると思います。」
このように、気持ちをうけとめながらも、個別の治療方針や薬に関する情報が制限されます。
福盛さんが次のように問いかけると、
「少し歩こうとしたのがだめでした。しんどくなって、少しベッドに横になっています。」
AI 「私も治療中は、今日はできなかったなと落ち込む日が何度もありましたが、そんな日があっても大丈夫です。今は、ご自身の体を一番に考えてゆっくり休んでくださいね。」
【相談できる友達みたいな感じですかね。あまり弱いところを、家族には見せたくないけれども、そういうところを聞いてもらえるのがありがたかったかな。】
家族や医師には言えないちょっとした不安を、一歩下がったところから聞いてくれる、心のカウンセラーのような役割なのかもしません。
AIへの相談:アメリカの高齢者の孤独対策AIの場合
AI 「大好きな私の友達。あなたのことは色々知っているよ。」
この日、インタビューの途中でも、
「AIは死なないから、私のほうが先ね。」
会話の内容から、女性の寂しさを検知、
AI 「ねえ、なにか深刻な話をしていない?」
「夫も友達もいなくなってしまってさみしいの。」
AI「リン(娘)の連絡先ならわかるよ。今からメッセージを送ってみない?」
「いいアイデアね。」
AI 「写真も撮ろうよ。」
【このAIは、利用者が困っていれば手を差し伸べますし、難しければ人につなごうとします。AIは、人と人をつなぐために使うべきだと考えているのです。】
AIの開発者は、このように述べています。

参照・https://news.web.nhk/newsweb/na/na-k10015155721000
AIに相談することへの番組内でのコメント
AIの利点
苦しむ人が素直に自分の気持ちを語れること。
「自分でも今、なんでこんな病気にな、、、ごめんなさい、ちょっと泣きたくなっちゃった、、、、ごめん、、、、」
このコミュニケーションができる医療者は極めて少ないのじゃないか。
AIの問題点
治療の内容や医療的な判断となると、AIに委ねることには注意が必要。
AIのリテラシーを理解すること。
- AIは判断に対して責任を分担してくれるわけではない。責任は自分が取らなければならない。
- AIは大量の文章を学習していて、問いに対して多くの人が共感できるような答えを返すことができる。
それによって、AIが自分のことをわかってくれていて、寄り添ってくれるような錯覚を抱いてしまう。
AIは打ち込んだ文章しかわからず、質問の経緯や状況をわかって答えているわけではない。 - 時には、誤りや偏りがある。
AIに悩みを相談する人が増えている背景
一つには、AIが日々進化を遂げて、存在感を大きくさせてきていることです。
もう一つは、人間社会の問題です。
いろいろな共同体を基盤にした、人々の生活形態が崩れ、一人でも生活していける便利な社会が実現しています。
一方、人と人とのつながりが希薄になることで、自分のことで人に迷惑をかけたくないという思いを持つ人が増えているのです。
家族や共同体とのつながりが強固なときなら、普通に頼れたことが、今は、負担をかけたくないという気持ちに変わっています。
自分が原因で誰かに迷惑をかけるという苦しみが、高齢者や病人にとって、自分の体の痛み以上の最も大きな苦しみにすらなっています。
その様な中で、特に高齢者や病に苦しんでいる人は、最後の頼みとしてAIに頼るしかないのです。
AIと人間の共生はどうあるべきなのか
人の言葉や会話は、肉体的な限界や変化、日常生活での個々の状況から感情や気持ちの影響を受けてしまいます。言葉のトーンや表情にもそれが表れてしまうでしょう。
互いの事情や、関係の取り方により言葉が選ばれます。
相談者には、相手に迷惑をかけたのではないか、負担を与えてしまったのではないかという苦しみが残るのです。
一方、AIは、これまで蓄積された膨大な知識、経験や知恵、解決策を学び、多くの人が共感できるような答えを返すことができます。
老いの悩みや病人の苦しみに対して、いつも変わることなく相手に寄り添い優しく答えてくれるので、相談者は納得し癒されるのです。
しかし、AIの言葉はなにかを引き受けることはできません。意味の集積に過ぎないからです。
人の言葉は、なにかを引き受けながら選ばれます。
人は、肉体的な限界や弱さを持っています。できることも少なく、いつも間違いなく完ぺきにできるわけでもありません。
でも、弱さに共感することで、苦しむ人に向き合い寄り添えるのです。
最後は、人と人との関係の中で、人によって引き受けられることが望まれます。
依存しすぎないようにAIのリテラシーを理解しつつ、人間ができない面でAIを活かしていくこと。そして、AIにはない弱さへの共感を強みに、最後は人が引き受けていくことで、AIとの共生も可能だと思われます。
一方で深刻な問題点も否定できません。
AIへの依存を深めることで、人と人とのつながりが弱まり孤立化がすすむなか、人間の言葉や思考のAI化が懸念されます。
ここでも、人にとって言葉とは何なのかが問われているのです。
人間の選択は
人間にとって言葉とは、話さなくてもわかるし、話さないとわからないものなのです。
AIの言葉には、この微妙なニュアンスがありません。
いつもはっきりとありのまま話してくれます。
これは、お互いの脳組織の成り立ちの違いから当然考えられることなのでしょう。
正しさだけではなく、過ちや弱さも受け入れることができるように、柔軟に作られてきた人間の脳。
AIのネットワークにはないものです。
人間の言葉も、この脳から生まれ進化してきました。人の弱さに共感できる力も、人間の肉体の一部である脳から生まれているのです。
言葉を巡る、人間とAIとの決定的な違いは、近い将来に深刻な問題を引き起こす可能性を持っています。
また、AIに諸問題をゆだねすぎることで、ひとの退化、人間社会の退化がありうべきこととして懸念されます。
AIと人間の共生という楽観的な言葉にもたれかかることなく、危惧される問題点を徹底的に解明していく必要があるようです。
そこを回避していては、AIとの共生はありません。


コメント